2024.03.19男性育休
育児と仕事、気持ちが揺れるからこそ「自分の軸」を確かめる
-
2015年シスメックス株式会社 入社 情報システム部門に配属
-
2018年9月第1子誕生【育児休業取得:2018年10月~2019年3月】(6ヶ月)
-
2020年7月第2子誕生【育児休業取得:2020年10月~2020年12月】(3ヶ月)
「子育てってどんな感じだろう」という好奇心が強かった
これまでのご経歴や、現在のご仕事について教えてください。
子どもの頃、3年半ほどアメリカで暮らしていた時期がありますが、それ以外は至って平凡な人生を送っていると思っています。大学卒業後、文系にも関わらずIT業界に入り、開発者などを経験して、今は医療機器メーカーである当社の情報システム部門で勤務しています。
初めての育児休業取得については早い時期から決意されていたそうですね。
そうですね。妻のお腹の中に子どもができたという時期から決めていました。今は核家族が多くて“ワンオペ育児”が一般的なので、どの家庭も大変だと聞きます。だから自分の中では「育児は家族みんなでするもの」という思いを強く持っています。わが家は、夫婦で分担することに加え、近隣に住む妻の実家の家族にも応援してもらって「みんなで」が実現できています。
ご自身の育った環境がそうだったのでしょうか。
いえ、全く違います。世代的にどこの家庭も同じだと思いますが、父親が仕事人間でほとんど家にいなかったんです。家の中では母親が主導権を握って、4つ上の兄と共に厳しく育てられました。留守がちであった父親のことが別に嫌いではないけれど、遠慮があるというか、心理的な距離感が少しあって。今でも完全に親密ではない気がします。それは、幼少期に一緒に過ごしている時間が短かったことも一因としてあるのではないかと。それもあって私は子どもたちと積極的に関わろうと考えています。
実際に子どもたちと関わって、どう感じていますか?
日々いろいろありますが、何より可愛いし、いつの間にかしゃべり出しているなど、成長して変わっていくので面白いですよね。育児休業を取ろうと思った本心は、責任感よりも「子育てってどんな感じなんだろう」という“好奇心”の方が強かったかもしれません。子育てを経験することで、人生の奥行きのようなものが、変わってくるだろうなと。しかも生まれた瞬間から“今しか経験できないこと”の連続なので「これは『参加しない』はないでしょ!」って思いました(笑)
母親から「育休を取る必要はないやろ」と言われました
「育児休業を取ります」と言った時の周囲の反応は?
昭和20年代の生まれの母には「あんたが長く休む必要はないやろ」と全面的に否定されました。専業主婦だった母は自身の経験からも「別に男が育児をしなくても」という感じです。子どもがいる男性の先輩には「うらやましいけど、自分にはできない」と言われました。専業主婦をしている友達には「え、男やのになんで?」と言われ、取引先の男性には「出世に響くのでは?」と否定的なトーンでした。びっくりしたのが、後輩から無邪気に「石井さん、産休取られるんですね」って言われて「僕が産むんじゃない」って(笑)。当時はなかった男性版産休「出生時育児休業」が2022年に新設されているので、今なら“間違い”ではないのかもしれませんが。そんな中、ただ一人「素晴らしい!」と言ってくれた友人もいて、後に彼自身も育児休業を取りました。
周囲の反応をご自身はどう捉えたのでしょうか。
歴史的に、家事、育児の多くを女性が担ってきたという事実は否定できないし、男性はずっと働いてキャリアを積んでいくという“常識”が今でも根強くある気がします。また男性が会社組織の横並び状態から1人だけ外れると損をしてしまうといった考え方もあるのではないかと思っています。母もそうですが、育児休業給付金が出ることを知らないで経済的不安を言う方もおられるので、制度活用を進める前提として、社会全体で正しい理解をしていく必要があると思います。
育児休業取得について、職場での反応はどうでしたか?
いよいよ休みに入る時に、上司に「貴重な経験ができると思うからがんばって」と言われ、職場として後押ししてもらえました。自分の仕事に関しては、複数に分けることができる業務であるため、育児休業の意思表示を早めに行い、上司と余裕を持って振り分け先の確保や引継ぎの相談ができるようにしました。また当時、社内では属人化している業務を標準化していくような業務改革がありました。その流れもあって自身の業務も誰もが分かる形に整理するよう心がけており、それが育児休業前の引継ぎでも役に立ちました。ちなみに2022年の社内での男性育児休業取得人数は49人でした。半数以上が1ヶ月を超える取得日数で、育児休業の取得人数も年々増加しており、制度活用は広がっていると感じています。
子どもが2時間泣き続け、最後はそのエネルギーに感動
実際に育児休業に入っていかがでしたか。
正直に言えば、育児生活を甘く見ていた部分がありました。実際はめちゃめちゃハード。もちろん赤ちゃんに合わせた生活をしないといけないのですが、赤ちゃんは昼夜の感覚がないので「ちょっと寝てはちょっと起きて」みたいなことを1日中ずっと繰り返すんです。妻と一緒に世話をするのですが、長男はとにかくよく泣いて、泣き止まない子でした。1時間抱っこしても泣き止まないので諦めて、泣いたまま布団に寝かせて、横でうなだれていたことがありました。でもそこからさらに1時間泣き続けたので「そのエネルギーは、生命の神秘だ」と最後には感動しました(笑)。育休中に少し勉強するとか「趣味活動もできるのでは?」など言われますが、寝不足でふらふら、あっという間に1日が過ぎていく中で、実際には厳しいですね。
育休中に印象に残っている出来事はありますか?
長男が生後6か月ぐらいの頃、私が市販の離乳食を与えていたら、急に泣き出したんです。いつもより泣き方が激しい気がして、隣の部屋にいた妻に話をして2人で様子を見ていたら、口の周りにぶつぶつが。アレルギー反応みたいだなと思って、すぐ病院に行って血液検査をしました。赤ちゃんにも注射の針を刺すんですね。痛々しかったです。検査の結果、「小麦と卵と牛乳のアレルギー」ということで、これは大変だと。今ではだいぶ落ち着いたのですが、その時は「大体のものが食べられない。何てかわいそうなんだ」と胸が詰まりました。でも最初に子どもの小さな変化に気づけたのは、日々の関わりの積み重ねがあったからだと考えています。
あっという間に育児休業の6ヶ月が終わったそうですね。
あまりに大変なので、瞬間的に「仕事に行っている方が楽かも」という気持ちになったこともありましたが、とにかく夢中で育児に向き合った6ヶ月でした。復帰した時、仕事上の大きな変化がなかったのはラッキーだったと思います。でも「育児をしながら、仕事もする」という世の中の多くの方がやっておられる本当に大変なフェーズが始まりました。今もですが、めちゃくちゃ毎日必死です。ただ、育児休業中に妻との間で自然に家事育児を分担する形ができあがっていたので、それほど慌てることはなかったです。
日々の生活で思い通りにならないことも多いのでは?
朝起きて子どもはふたりともまず泣きます。だからなだめるところからスタートです。朝ごはんは「ご飯かパンかどっちにする?」と聞いて、ご飯だというので出したら「パンがいい」と言うわけです(笑)。保育園に送って行く時も、自転車のチャイルドシートに乗せるのに「前か後ろ、どちらに座るか」で揉めてずっとじゃんけん…焦りながら待つしかありません。今は在宅で仕事をすることも多いので、昼休みなど仕事の合間に掃除なども私がしていますが、1人暮らしが長かったこともあり、家事の面はスムーズにできていると思います。
「今、何を大切にしたいか」ということを考える
仕事や育児生活に対してどういうスタンスで向き合っていますか?
仕事は、あくまで生活のためにやっています。これは、仕事をいい加減にするということではなくて、きっちりと責任を果たしながらも、仕事に生活を支配されないことが大事だということです。そして、子どもとの時間を積極的に取りつつも、自分の趣味とか、自分自身のためになることも大切にしたいと思っています。とは言うものの、私は気が大きい方ではないんです。いろんな状況の中で、気持ちが揺れることもある。だからこそ、育児休業を取る時もそうでしたが、自分の軸や「自分がどういう父親でありたいか」をしっかりと定期的に確認するようにしています。
これから育児取得を考えている方、育児中の方にメッセージをお願いします。
育児休業に対する考え方については、人によって価値観が違うのでこれという正解はないと思います。また価値観は変化するものなので、私も何年か後には変わっているかもしれませんし、変わってもいいと思っています。これからお子さんの出産を控えておられる方は「今、何を大切にしたいか」ということを考えていただきたいです。人生はご自身がデザインするもの、デザインできるものだということを忘れずに歩んでほしいです。
※本記事は「あすてっぷコワーキング 第4回交流会」(2024年1月13日開催)での講演内容を再構成したものです。