2023.04.12起業家
創業から変わらぬ想いは「着たい服がない、でもここにはある」という店づくり
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1980年大手アパレルメーカー 入社 企画部・デザイナーとして勤務
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1988年出産を機に退社
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1995年在宅でレースのデザインを受注
大学にて特別講師として講義を担当 -
2000年伊ブランドを取り扱う、国内アパレルメーカー 入社
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2018年神戸開業支援コンシェルジュ 起業相談
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個人事業主として開業
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ATELIER HUE 開店 -
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2022年ATELIER HUE 5周年イベントを開催創業から変わらぬ想いは「着たい服がない、でもここにはある」という店づくり「ものづくり」をするために専門知識を学び、大手アパレルメーカーへ入社
―大学卒業後、まずアパレルメーカーに就職した理由を教えてください。
昔からものづくりが好きで、デザイナーとして働きたいと思っていました。ただ、当時は大学の卒業資格だけではデザイナー職に就くのは難しかったので、服飾やグラフィックなどのデザインを学べるところへも通っていたんです。そこでデザインを一通り学んでいたおかげで、就職後はデザイン業務を担う企画部に配属されることになりました。企画部ではチーム一体となって、さまざまな納期に向かって動くため、仕事量はかなり多かったのですが、ものづくりに携われることがとても嬉しく、しんどさはほとんど感じませんでしたね。
ものづくりの製造過程を学ぶため、国内出張にもたくさん行きました。現地へ行って、デザイン変更の相談を直接行うこともありました。
―アパレルメーカーでの働き方はどんな感じでしたか?
アパレルメーカーということもあり、私が在籍していた部署は8割くらいが女性社員でした。そのため、「女性だから」という理由で、キャリアの壁を感じることはありませんでしたね。ただ出産を機に、これまでの仕事と育児の両立は難しいと思い、8年間働いた会社を退職しました。そして、しばらくの間は3人の子どもを育てながら、在宅で取り組めるレースのデザインのお仕事を受けたり、自宅近くの大学で講義を行ったりしていました。講義の内容は前職のメーカーで取り組んできた服飾デザインに関するもので、パターンの仕組みなどを教えていました。
―仕事と育児の両立は大変ではなかったですか?
これまでの知識や経験を活かせた分、大変さはあまり感じませんでした。ただ、これまで取り組んできた「デザイン」と、「人に教える」という仕事はジャンルが違ったので、経験したことで「私はものづくりをするほうが好きだ」と、あらためて思いましたね。子育てに関しては、自分だけの力ではなく、平日に私の妹に家に来てもらったり、幼稚園や保育園の先生たちにも見守ってもらったりしながら、仕事と両立していました。親以外の大人にも見守られ、社会にもまれて育ったことは、私にとっても、子どもたちにとっても良かったと思っています。他の人にも育ててもらったほうがよく育つものですね。
子どもは3人いたので、末っ子と手をつないで街を歩けるようになったときには「やっと大人の世界に戻れる!」と感じたことをよく覚えています(笑)。
―2008年にイタリアブランドを取り扱う会社へ転職されていますが、それまでの経験との違いはありましたか?
ブランクもあったので、最初はアルバイターとして働き始めましたが、のちに実店舗の店長となり、バイイングや接客も経験しました。「バイイング」は、いわゆる買い付けのことで、お店にどのような商品を置くべきか、どの商品を減らし、どのような新商品を仕入れるか、といったことを考えます。はじめは失敗もしましたが、慣れてきてからは、接客する中で気づいたお客さまの要望や、店舗をより良くするための提案を会社側に伝え、お店づくりやブランドの拡大にも取り組んでいきました。そのときに得たノウハウはいまも活かされていると思います。
働く中で私自身がそのブランドを大好きになり、いまのお店にも置かせてもらっています。
長年の夢だった「起業」へ踏み出したきっかけは、「どんな服を着ればいいのかわからない」というお客さまの声だった
―起業を志したきっかけはなんでしょうか?
アパレルメーカーにいた頃から「いつかは自分のお店を持ちたい」とは思っていました。しかし、50代の頃は、「私に起業ができるのか、できないかもしれない」と頭の中で考えてばかりで、行動に移すことはありませんでした。定年退職し、これからのことを考えたときに「働き続けたい」という気持ちもあって、ようやく起業を決心しました。後押しとなったのは、それまでお店に通ってくださっていたお客さまです。「最近、これまで着ていた服が似合わなくなった」「どこで、どのような服を買えばいいのかわからない」というお悩みをよく聞いていました。そのような方々をあまり待たせたくないという想いもあって、退職後すぐに動き始めました。
―起業を迷っていたときに抱えていた不安は、どのようなものでしたか?
開業するならビジネスとしてきちんと成立させたかったので、まずは起業するために必要なことをとにかく調べていきました。そのときに、神戸市の「起業相談コンシェルジュ」という制度を見つけ、相談しに行きました。気がかりだったのは、「おままごとのようにならないか」ということです。ビジネスとして成立するかが不安で、家族からもそのような心配はされていました。
毎週のように起業コンシェルジュの方に「この書類が必要です」と教えてもらって、調べながら用意し、不備などがあれば教えてもらうということを繰り返しました。
―起業準備を進める中で大変だったことがあれば、教えてください。
特に大変だったのは、事業計画書の作成です。起業に関する支援制度を利用するためには、お店のコンセプトや強み、他店との違いなどをすべて言語化し、計画に落とし込んだ上で、20名近い人の前で発表することが必要でした。私の頭の中には明確なイメージがあったものの、それを誰かにきちんと話したことはなく、計画を立てながら何度も心が折れそうになりました。
ただ、あの段階で言語化しておいたことで、事業の軸を定められました。私自身がどのようなお店にしていくかを再認識できたことも、本当に良かったと思っています。
―素敵な空間ですね。塩田さんがご自身でデザインされたのですか?
内装の工事はほとんど不要でしたが、什器に関してはこだわりましたね。例えば、お店に置く洋服との相性を考えると、真新しい什器よりもヴィンテージもののほうが合うだろうとイメージし、準備していきました。洋服を並べているテーブルも、作業台のような大きいものを探したんです。ここにミシンを置いて、本当の作業台にしても似合いそうだと想像しています。
―開店後に大変だったことを教えてください。
オープンしてから2、3年は、失敗することも多く、何度も心が折れそうになりました。レジに紙が詰まって動かなくなってしまい、慌てたこともあります。一番苦労したのは、アパレルのバイイングに関することです。当初は発注した数やサイズの売れ行きが、予想と違うこともありましたが、今では発注と予想の差はほとんどなくなってきました。
また、現在は約10ブランドを取り扱っていますが、はじめはあちこちの展示会に出向いたり、気になるブランドに電話をかけたりして、少しずつ増やしていきました。
東京まで行って、「小さな店には卸せない」と断られたこともあります。あまり強気なほうではないため、それ以上はアタックできず、落ち込むことも多々ありました。そのようなときは「仕事を口実に出かけられて楽しい!」と、切り替えるようにしています。
あとは、開店当時からセミオーダーメイドも行っています。私の起こしたデザインをもとに展開しているのですが、袖を2センチだけ短くしたり、裾を少し長くしたり、お客さまの細かな要望に応えられるサービスとして好評です。
(今の経営状況について)
正直なところ、はじめはこのお店を10年続けられれば良いと思っていました。その頃には私も年をとるので、お店を続けるのは難しいだろうと。でも、2022年には5周年イベントを開催し、オープン当初さながら、多くのお客さまがこのお店に集まってくださいました。「このお店がなくなったら、どこで買えばいいのかわからない」と言ってもらうこともあります。だから、今は続けられる限り、続けていきたいと思うようになりました。
将来、どのような形で続けていくかはわかりませんが、営業時間を短縮したり、サロン形式に変えたりして、お客さまが望んでくださる限りは続けていきたいと思っています。
一歩を踏み出すことが大切。まずは「自分にできること」の棚卸しがおすすめ
私のように、「本当にできるのだろうか、できないのではないか」と悩んで、起業を諦めている方もきっと多いと思います。しかし、そこから一歩を踏み出せば状況は大きく変わっていきます。そして、いったん歩き始めれば、あとは「起業」を達成するために何をすればよいか、次のステップもおのずと見えてきます。
私の場合は、起業コンシェルジュの方に相談する中で「アパレルに関することならば、デザインもバイイングも企画も接客販売もできる」とあらためて気づけたことが、ビジネスに結び付きました。まったく未経験の分野から始めるのは大変かもしれませんが、少しでも経験があるならば、あとは一歩を踏み出すかどうかの違いだと思います。
―開業準備を進めるうえでのポイントはどこだったと思いますか?
2018年の3月頃に起業について調べ始め、その後、7月頃までは起業コンシェルジュの方にいろいろと教えてもらい、8月以降は商工会議所などへ行きながら、同時期にテナント探しも進めていました。9月にようやくお店の場所が決まり、什器の発注などを行い、2018年10月に「ATELIER HUE」をオープンしました。昔からずっと、私はものを作ることが好きなので、お店の名前も「ものづくりの場所」という意味を込めて「アトリエ」と名付けました。そして、「ヒュー(HUE)」は色を表す言葉です。ものづくりと同様に色にもこだわりたいと思い、店名に入れています。
定年退職後、1年未満での起業と開店は大変でしたが、すべての時間を自分のために使えている感覚でした。「やるしかない」という状況だったおかげで、悩む暇もなく、開店までたどり着けたのだと思います。
―最後に開業や新しいチャレンジを考えている女性に向けて、メッセージをお願いいたします。
事業計画書の作成などが本当に大変だったとお話ししましたが、いま思うと、最初に審査を通過し、お墨付きをもらったことで、以降の手続きを非常にスムーズに進めることができたのだと思います。「女だから」と言われることも、まったくありませんでした。私のように、「本当にできるのだろうか、できないのではないか」と悩んで、起業を諦めている方もきっと多いと思います。しかし、そこから一歩を踏み出せば状況は大きく変わっていきます。そして、いったん歩き始めれば、あとは「起業」を達成するために何をすればよいか、次のステップもおのずと見えてきます。
私の場合は、起業コンシェルジュの方に相談する中で「アパレルに関することならば、デザインもバイイングも企画も接客販売もできる」とあらためて気づけたことが、ビジネスに結び付きました。まったく未経験の分野から始めるのは大変かもしれませんが、少しでも経験があるならば、あとは一歩を踏み出すかどうかの違いだと思います。
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