2023.02.03管理職
ためらわずに挑戦したからこそ見えてくる景色がある
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1994年外資系製薬メーカー 入社臨床開発業務を担当
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2001年日本イーライリリー株式会社 入社
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2007年第1・2子 ご出産
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2009年課長に昇進
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2017年部長に昇進
薬開発を通じて患者さんの役に立つことがやりがい
―現在のお仕事について教えてください。
医療用医薬品の開発を行う研究開発本部で、その戦略策定を担う部署に所属しています。
医薬品の研究開発計画や実行、また市販された製品の情報提供に関する方法を日本の現状に合わせて行うこと、その上での日本ならではの強みを米国本社に伝えるため、戦略としてまとめています。
そのため、「研究開発」と名の付く部署ですが、メインはオフィスでの仕事です。
―医薬品の研究開発といった分野でお仕事をしようと思ったきっかけを教えてください。
一番大きなきっかけは大学で薬学を学んでいたことです。大学入学時は特に研究職に就きたいと思っていたわけではありませんでしたが、わたしの母がずっと仕事をしてきたので、漠然と結婚しても長く働き続けられる職に就きたいな、とは思っていました。
薬剤師という選択もあったのですが、学生時代の経験からわたしはある程度の規模の組織の中でたくさんの人と関わりながら、長期的な視点をもって新しいものを作り上げていくほうが性格的に向いている、と感じこの仕事に就きました。
―研究開発での印象的なエピソードはありますか?
子どもが生まれる前に小児用の薬の開発に携わっていたことがありました。子どもができてから、ママ友との会話の中で開発していた薬の話がでて、「あの薬、本当に役立っている」と聞いたことがあります。開発した薬が実際に患者さんの役に立っているのを実感できたことが印象的でした。
―では、研究開発のどんな点が大変ですか?
ときに時間管理がハードになることですね。トラブルで緊急対応が必要なときや、規制当局とのやりとりが大詰めのときなど、ポイントポイントでかなりのスピードが求められることがあります。
本来の仕事へのモチベーションはいち早く患者さんへ新薬を届けることなんですが、そんなときは難局をなんとか乗り越えることが目的となり時間も費やすことで、ちょっとしんどいな、と感じることがあります。
―2007年にご出産をされますが、お子さんが生まれてからの働き方に何か変化はありましたか?
うちには男の子と女の子の双子がいますが、小さいうちは結構大変で、正直言うと子どもが2歳になるまでの記憶があまりありません(笑)。
実は子どもが2歳になったころ、初めて管理職になりました。育児と仕事の両立という今までとは違った方法で働かねばならない中で、部下の信頼を得られるのか、きちんと上司としての仕事ができるのか、と不安に感じたこともあります。でも、管理職になるということは会社から期待されていることだと思い、前向きに考えるよう切り替えました。
特に仕事面では無理をせず、できないことは素直に「できない」とメンバーにサポートを依頼するように心がけました。たとえば在宅勤務などの仕事上のスケジュールも早めに伝え、わたしが会社にいなくても滞ることなく仕事が進む体制にすることを意識的に行いました。
一人で抱え込まず素直に頼ったことが却って、メンバーとの関係をより深いものにしたように感じます。
―研究職と子育てとの両立で何か大変だったことはありますか?
やはり時間の制限があることですね。弊社の研究開発職は、米国本社との時差の関係で時間が不規則になることも多く、家庭を持ってからその両立に悩まされることが少なくありませんでした。
特に海外とのやりとりが多い職種では、時差の都合上、会議のスタートが夜10時なんてことも。子どもたちがまだ幼いころは、わたしは1階でリモート会議、子どもたちは2階で泣いている、なんてこともありましたね。その間の子どもの世話は夫が。ほかにも絶対抜けられない重要な仕事の際はその予定を事前に伝えておき、子どもの急な発熱などの突発的な出来事に互いに備えておくなど、夫との協働がなければここまで来られなかっただろうと思います。
人とのつながりが前進するモチベーションに
―その後、「ウィメンズ・ネットワーク・リーダーズグループ(WNLG)」で女性営業職のネットワーク作りにご尽力されますが、そのきっかけを教えていただけますか?
「WNLG」は働く女性の職場環境を整える社内のグループで、今はGendar(性別)問題に取り組むグループに変化しています。当時の「WNLG」は各部署の女性管理職で構成されており、女性の働く環境の向上に取り組んでいました。わたしは育休明けの2年間、「WNLG」のメンバーとして活動していました。
活動2年目にはグループのリーダーを務めました。リーダーとして会社全体の女性の働く環境を見た際に、家庭と仕事の両立できる社内環境が整いつつある本社のスタッフと、ライフイベントを機に多くの女性社員が退職する営業職との違いに疑問を抱きました。
いろいろなヒアリングの結果、営業職の女性社員が置かれた当時の状況では目指すべきロールモデルを身近に見つけることはむずかしいということがわかりました。そこで本社のネットワーキングの経験を営業職でも活かすことを目標に掲げ、ネットワーキングの機会を提供する取り組みを行ったんです。結果、全国で営業職の女性社員が仲間を見つけて目標や相談ができるようになった、今もそのネットワーキングが進化しながら続いていると聞いており、嬉しく思っています。
「WNLG」での経験は人とのつながりがモチベーションにも影響するということや、会社を俯瞰的に見ることの大切さに気づくきっかけとなったように思います。
―誰もが自分らしく働ける環境を目指して
―女性が働くことは今では一般的ですが、研究職や開発職の女性はまだまだ少ないのが現状です。そのような中で何かやりづらさを感じることはありますか?
幸いなことに風通しの良い会社なので、それほどやりづらいと感じることはありません。
ただ、わたし自身、男性管理職と話すとき、本当の自分の思いよりも「こうあるべき」という考えが真っ先に出てきてしまうことがあります。研究開発職ではやはり、男性の上司が多いため、本音を言えず少し窮屈に感じることも。
例えば男性の上司から次のステップや新しいプロジェクトなどを提案されたとき、「来年、子どもが小学校に入学するからちょっと、、」などと発言するとネガティブに捉えられてしまわないかな、と先回りしてしまうことはありますね。なるべくプライベートや感情を表に出さないように意識しているかもしれません。
―ご自身も管理職として課長から部長へとステップアップされました。仕事への取り組み方は変わりましたか?
まず部下へのアプローチが異なります。課長職のときの部下はこれから管理職を目指す最前線で働く社員ですが、部長職では、すでに管理職の社員です。
課長のときはまだ経験の浅い社員への日々の仕事の指導がメインですが、部長職になると、課長よりもさらに広い視野が求められ、フォーカスする対象が組織やグループへと変化します。
部長の仕事は、個人ではなく、チームとしてどのように成果を上げるのかを考えること。成果が明らかになるには数年必要なため、その間の自分を含めたメンバーのモチベーションの継続も重要な仕事だと思っています。
―現在の部長としての活躍につながったご自身の強みは何だと思われますか?
はっきりと他者に物事を伝えられる点だと思います。子育てと仕事の両立という経験を経て、自分の置かれた状況を事前にはっきりと伝えることの重要性を感じるようになりました。明確に伝えておくと、不必要な衝突が避けられ、さらには周りのサポートを得やすくもなります。
もちろん一方的に「できない」と伝えるのではなく、どうしたらできるか、いつならできるかなどと、前向きな姿勢は常に意識しています。
管理職が「人に頼る」というとネガティブなイメージがあるかもしれませんが、大きな組織になればなるほど、自分一人のパフォーマンスではどうしようもないことが増えます。そこでどれだけ協力を依頼し、サポートしてもらえるかは大きなポイントだと思います。
―職場でステップアップを目指す女性にメッセージをお願いします。
わたしも入社したときは「管理職になってやろう!」という大きな志を持っていたわけではないんですよ(笑)。ただ、目の前にあることをひとつずつこなしていった結果です。
もし、管理職へステップアップする機会があればぜひ挑戦してください。そういうお声をかけてもらえること自体が、今までの仕事への評価。もちろん、不安もあるかと思いますが、気持ちを切り替えて、ポジティブに捉えることができれば、と思います。
課長のときに見えた景色や達成感は、部長になってからのものともまた異なります。その景色は挑戦する価値があるものです。
ひとまずチャレンジして、「やはり無理だった」なら軌道修正するのもOKだと思うんです。まず、無理と決めつけずに、いろんな可能性を模索してください。そこから広がる出会いもきっとあるはずです。
そして、そうすることが、女性や男性関係なく、誰もが働きやすい会社や社会へとつながる一歩となると思っています。