あすてっぷKOBE

女性活躍WOMEN'S EMPOWERMENT

2023.10.26管理職

「そのまちのニーズ」に応えたい

  • 2003年
    認定NPO法人コミュニティ・サポートセンター神戸(CS神戸)に入職 総務を担当
  • 2012年
    ご結婚(正式には事実婚)
  • 2013年
    生きがい活動ステーション マネージャー
  • 2016年
    事務局長
  • 2021年
    第1子ご出産
  • 2022年
    職場復帰

 

「人間100面体思想」のコミュニケーション術

―大学3回生の時から2年半の間、スウェーデンに留学されたご経験があり、スウェーデンの社会の成熟度に感銘を受けられたそうですね。

スウェーデンへの留学時には、投票率の高さ、男性育休、ケアの社会化、多様性に富んだ社会など様々なことに感銘を受けたのですが、特に、「自分は社会の構成員である」という一人一人の意識がとても強いと感じました。例えば、社会で起こっている問題や政治の問題を日常的にあらゆる場面で話し合っているんです。
それでいて重たい雰囲気は全く無くて、ご飯を食べながら、パブなどでお酒を飲みながら、みんなで自分の意見を言い合っている、という感じです。自然なかたちで民主主義が根付いていると感じました。

―そんなスウェーデンで生活して習得された「人間100面体思想」とは?

私の造語なんですけど(笑)

私が留学先に選んだのは「フォルケ・ホイスコーレ」と呼ばれる成人教育機関です。18歳以上なら誰でも学べて高校卒業レベルの単位を取得することができます。
ドロップアウトした若者や学ぶ機会の無かったシニアなどあらゆる年齢の人がいて、難民移民コースもあるので生徒の国籍も様々です。

そのため、学習に対するモチベーションも様々なんです。グループワークが中心なんですが、大事な日にも平気で休んでしまう。そんな人たちとどうやってコミュニケーションをとってグループとしての成果を出せばよいのか、本当に困りました。

そんな時に編み出したのが「人間100面体思想」なんです。
人は一つの面しかもたない「1面体」ではなく、100個ほど違う面をもつ「100面体」である。そのうち99の面では通じ合うことができなくても、どこか1つだけ、うそいつわり無くその人と向き合える面を見つけられるはずだ。そのたった1つの面を手放さないようにして、その人とコミュニケーションをとり続ける、という考え方で、この方法がうまくいったんです。

今も、相手と通じ合える「1/100」の面を見つけて、それを大事にしていくことをマイルールにしています。

退屈に思えた「半径500メートル圏内」

―留学中には世界の不平等を感じる機会もあり、「よりよく生活できる人が増えるように」という思いでCS神戸に入職されたそうですね。ただ、収入や安定性などの面で、NPOで働くことに不安はありませんでしたか。

帰国の2日前にYahoo!で「NPO 求人」を検索し、たまたまヒットした、認定NPO法人コミュニティ・サポートセンター神戸(CS神戸)に応募したのが入職のきっかけです。当時月給を出しているNPOはほとんどない中、「やりたいことをして、その上、月給がもらえるの!?」という感じで迷いなく応募しました。
「普通自動車免許」も応募要件に入っていたのですが、「もうすぐ取得できます」と微妙なウソをついて採用され、あわてて自動車学校へ入学しました。それぐらい働きたかったです。

―入職されて一番最初に担当されたお仕事について教えてください。

最初は総務担当で、庶務や機関誌の発行などの仕事をしていました。
そうそう、初仕事は入職後2日目のビンゴ大会の司会でした。高齢者支援のNPOとの合同企画で温泉旅行に同行する仕事だったんです。そこで、いきなりプロジェクトリーダーに「ビンゴの司会やってよ!」と言われて。私も「わかりましたっ!」と張り切って臨み、すごく盛り上がりました。

―ただ、入職後まもなく、「今ここで生活している人をしっかり見てほしい」と注意を受けたそうですが…。

面白そうな仕事だな、と思って入職したものの、学生時代の刺激的な毎日に比べて、半径500メートルくらいの範囲での仕事を物足りなく感じてしまったんです。その「退屈だな」という心の内が態度に表れていたんだと思います。
「海外経験はすばらしいけど、今ここで生活している人をしっかり見てほしい。その態度だと反発を招くこともあるかもしれないから」と注意を受けたことが今でも印象に残っています。

「半径500メートル圏内」だからこその希望

―それがどうして、やりがいのある仕事に変わったんですか。

スウェーデンから帰国してまもなくの頃、駅で耳にした「電車が約14分遅れています」というアナウンスに違和感を覚えました。「約15分」では許されないのかな、日本ではどこまで正確さを期すことが求められるんだろう、と。

日本で暮らすうちにそんな違和感も消えてしまいましたが、JR福知山線の脱線事故が起こったとき、この事故は、1分単位の正確さを求める社会が引き起こした、そしてその社会の一員は私だ、と感じました。
事故後、JR福知山・神戸線沿線のNPOが連携して「NPO・JR事故支援ネット」を立ち上げ、被害者の方々の支援に取り組むことになりました。
病院への付き添いをしたり、臨床心理士さんのお話を聴く機会を設けたり…。その活動に関わる中で初めて、自分の中にあった問題意識と仕事がつながったと感じたんです。

そんなつながりができると、それまで問題として捉えていなかった社会の課題がどんどん見えるようになりました。そして、それらの課題を解決するためにNPOがあるんだ、半径500メートルの中でだからこそ、希望をもって活動できるんだ、と。
実際の仕事のエリアはもっと広い範囲になりますが、身近なところに地域の課題がある、そこを立脚点にすることの大切さを実感しました。

鍛えてくれた「マネジメントの壁」

―入職して10年後にマネージャーに就任されておられますが、マネジメント側にまわることについて、迷いなどはありませんでしたか。

マネージャーになること自体に迷いはありませんでした。そんなに深く考えていなかったせいかもしれません(笑)

むしろ、なってからマネジメントの壁にぶつかりました。
チーム内でスタッフの人たちとどうコミュニケーションをとればよいのか、どういうチーム編成にすればパフォーマンスを最大化できるのか、人材マネジメントにすごく苦労したし、勉強もしました。本を読んだり外部の研修に参加したりしながら、経験を通して鍛えられました。

事務局長になると、数字が読めることが必須なので、決算書の読み方や仕組みなども、独学でかなり勉強しました。私はもともと数字が苦手なのでつらかったのですが(笑)。さらに法人全体のことも考える必要があります。現在、CS神戸には6つの拠点があるのですが、それぞれの拠点で成果を挙げることはもちろん、拠点同士で連携して相乗効果を出すことが重要です。

出産までは、とにかく仕事に邁進しました。

みんなが応援してくれるから頑張れる

―出産のご経験を経て現在子育て中とのことで、仕事との両立は大変だと思いますが。

子どもがまだ2歳なので保育園で頻繁に病気をもらってきて、その度に仕事を休まなくてはならないんです。この1年だけでも、手足口病、感染性胃腸炎、インフルエンザ、中耳炎、結膜炎、ヘルパンギーナ、コロナなど。職場の協力があり、本当に助かっています。

理事長も子育てをしながら仕事を続けてきたので非常に理解がありますし、スタッフにも子育てや介護の経験がある人が多く、大変さを分かってくれます。職場関係者はもちろん、家族、親、友人、保育園の先生など、みんなが応援してくれるから、今、頑張れていると思います。

 

子育てで実感、「元気づけてもらえる仕事」の大切さ

出産直後は子どもはかわいいものの、社会から断絶されたように感じ、辛いことも多かったです。仕事で得られる出逢いや達成感が恋しくて、出産後7か月で子どもを保育所に預け、時短勤務で職場復帰しました。

そんな経験を仕事に活かせたら、と、出産から復職までに使ったサービスを、それを提供するセクターごとにまとめてみたんです。

行政セクターのサービスは、妊婦検診、保健師さんの家庭訪問、子どもの3か月検診。「安心」をもらえました。
企業セクターのサービスは、陣痛タクシー。研修を受けた運転手さんが病院まで送ってくださって、「助かった」と感じました。

行政からの補助金により非営利市民セクターが実施しており、安価に利用することができたのが産後ケアと児童館の親子サロンです。産後ケアではひと休みできましたし、親子サロンの交流で精神的に助けられました。
また、非営利市民セクターが独自に実施している育休復帰セミナーでは、病児保育一覧などの情報に加えて、先輩方からの応援メッセージもいただけて、「元気」をもらえました。

CS神戸では、年間約50の団体を立ち上げるとともに、既存の団体の運営支援を行っていますが、こんな風に3つのセクターが役割分担をしつつ、連携して社会を担うことが必要なんだと実感し、NPOの存在価値を再認識することができました。

―最後に、NPOで働くことについて、これまでのご経験を踏まえてメッセージをお願いします。

地域課題の解決に向き合い続けるには、エネルギーが必要ですが「社会に役立っている」という実感が得られます。私はそれをやりがいに仕事に取り組んでいます。

ただ、強い思いを持った人にしか出来ない仕事ではありません。もちろん、NPOの目指すところと自分の思いが、いくらかは重なっていることが必要です。でも、組織としては、構成員たちの思いにグラデーションがあったほうが健全だと思っています。
私たちが仕事をする上で大切にしているのは、「どうすれば誰もに居場所と役割がある社会が実現できるのだろうか」ということです。

より多くの人にとって生きやすい社会が実現されることを願って、今後も、生活者としての視点から、地域の課題に取り組んでいきたいと思います。

所属団体名
認定NPO法人コミュニティ・サポートセンター神戸(CS神戸)
所在地
〒658-0052 神戸市東灘区住吉東町5-2-2 ビュータワー住吉館104
事業内容
地域課題解決を目的としたNPO等の立ち上げおよび運営支援、まちづくり全般
規 模
2022年度事業 決算総額 9255万円、スタッフ 32名(常勤・非常勤含む)、ボランティア 約200名
ホームページ
https://www.cskobe.com

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