2023.11.20ダイバーシティ管理職
「こうあるべき」を手放して、みんなが優しくなれたら
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2006年株式会社ダイハツカーネットへ入社
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2011年兵庫ダイハツ販売株式会社へ転籍
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2019年係長に昇進
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2022年課長代理に昇進、監査室室長
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2023年ダイバーシティ推進室に兼務で配属、監査室室長兼ダイバーシティ推進室室長
“見て見ぬふり”はできなかった
現在の会社に入社されたきっかけとお仕事について教えてください
引っ越しを機に働くことになり、前の会社に中途採用されました。結婚前に事務経験が少しあるだけで、それまでは主婦でした。そこから転籍という形で現在の会社へ入社、主に経理業務をしていました。きっちりした答えと区切りのある仕事は好きでした。子どもがある程度大きくなってからの就職でしたので、比較的自分のペースで仕事をしてきた感じです。
監査室とダイバーシティ推進室、それぞれどんなお仕事をされているのでしょうか。
監査室は、会社全体のコンプライアンス、ルールが守られているかなど、働く社員、そして設備等についても確認を行う部署です。年間を通し兵庫県内の拠点全て回りますが、チェックして指摘する立場なので「来てくれてありがとう」とは言われないですね(笑)。ただ社内のいろんな人と接する機会は多いと思います。
ダイバーシティ推進室は、まだ今年の4月にできたばかりですが、全社員が働きやすい職場にするための取り組みをしています。まずは「ジェンダーって何?」といった基本的なことや、男女の役割に無意識に固定的な観念を持つ「ジェンダー平等」などについて、役員や管理職だけでなく全社員を対象に研修をするなど社内周知をするところから始めています。
ダイバーシティ推進室ができる前から、社内のジェンダー平等に向けたさまざまな活動を始めておられたそうですね。
きっかけは、管理職に昇進した時に受けた外部研修でした。「アンコンシャス・バイアス」(無意識の偏ったモノの見方)がテーマで、無意識の偏見が組織や人の成長を妨げるというところに関心を持ちました。特に車関係の業種は男性中心の社会なので、会社としてジェンダーギャップの解消などに取り組む必要があると思いました。行動を起こしたのは、性格上、目の前の課題などに対して見て見ぬふりができないというのもあって(笑)。会社としてもSDGsなど様々な取り組みの流れもあり、本来の業務外でしたが、先進的な取り組みをされている豊岡市への視察や、社内のジェンダーギャップ対策検討委員会への参画が実現しました。活動する中で組織化して取り組むべきだと感じ、提案した結果、ダイバーシティ推進室が誕生しました。
誰にでも無意識の思い込みはある
「役職、性別に関係なく、自分でお茶出し」、「内勤女性の制服の廃止」など既に社内でジェンダーギャップ解消に向けた実践をされています。その中で特に大変だったことは?
制服の廃止には数年かかりました。私はずっと事務で、制服に違和感はなかったんです。でも営業職の女性は、本社勤務になった途端に「制服で」と言われると、「なぜこれまでのスーツはダメなの?」ってなりますよね。同じ部署でも男性はスーツなのに。そこで現場の声を集めて何度も要望しましたが、「女性の制服は規程だから」となかなか取り合ってもらえませんでした。役員や部門長に女性がおらず、会議に参加できないので最終決定の場で意見が反映される機会がないんです。そこで「変えられないのであれば、せめて規程の根拠を示してほしい」と行動を起こしたところ、ようやく変えようという流れになり、今は制服か自前のスーツの選択制になっています。管理職の多くは男性で、女性の意見が取り入れられる機会が少ないので、意思決定の場にどうしたら女性を増やせるかが課題です。
そういった課題を感じながらも、「女性活躍」という言葉には少し違和感があるそうですね。
昔からずっと活躍している女性はいるんです。でも「女性活躍」っていう言葉で切り取ると、「女性は活躍していない存在」のように感じて。基本的には、男性も女性も活躍できることが大切ですよね。そもそも「女性だから」と期待されていないことも多いような気がします。豊岡市への視察で伺った「女性はバッターボックスにも立たせてもらっていない」という表現にすごく納得しました。でも女性側も「言われてみれば…」という反応なのは、自分が「バッターボックスに立てる存在」と思って仕事をしてきていないから。例えば「子育て中だから」と職場として“配慮”しているつもりが、実は“排除”になっていることもある。まずは女性が「やってみたい」と思える、そして職場や家族がそれを応援する、そうなるためにはこれまで根づいた意識から変える必要があると思います。
社内の声、反応はどうなのでしょうか。
「どんなジェンダーギャップを感じているか」といった意見を社内で出し合った時に、子育て経験のある女性社員からは、「当時、いつ休むかわからない状態でみんなに迷惑かけるから、意欲的なことを言ったところで…という遠慮があった」という話がありました。これまで表に出なかった声も多く聞かれました。性別による無意識の思い込みをテーマにした研修では、「何気なく」あるいは「悪気なく」言っていたといった気づきや「明日からお店で改善できることもある」といった感想も多く寄せられました。働きやすい職場にするという観点でジェンダーギャップを解消していくことには、肯定的な意見が大半です。社内研修などで積極的に意見交換の場を設けるなど、社員のいろんな胸の内を聞き取って、気づきの共有をする機会の重要性を感じています。
ご自身も「無意識の思い込み」をしていたそうですね
「管理職、リーダーはすべてを引き受けて、しっかりしていないといけない」という勝手な思い込みです。確かにそういうタイプのリーダーもいますが、部下に任せることで、得意なことを引き出して成長に繋げていく、そんなリーダーのあり方もあると知りました。その時、自分が楽になるのを感じたんです。ダイバーシティに関わるようになって、本を読んだりいろんな人の意見を聞いたりするなかで、自分自身も「多様性」を認めていくことのメリットを感じています。例えば、人との接し方でも「この人はこういう人」という一方的な思い込みはやめて、人にはいろんな面があると柔軟に考えることで関係性が変わることもあります。
できないこと、どうしようもないことは考えない
「前向きに動いていく」というご自身の軸になっているものは何でしょう。
私は、すごいキャリアを積んできたわけではないんです。しかも仕事をするまでは本当に期待されてこなかった。だからまず受け入れてくれた会社に恩返ししようっていうのは絶対にあるし、期待されていることがすごくプラスな要素ですね。私自身が「発言するタイプ」というのもあって(笑)。何かを良くしていくためには、言わないと伝わらないと思っています。
働く前、子どもと海外に1ヶ月半ほど留学したことがありました。日中子どもと離れて語学学校に行ったら、普通に「ともみ」って呼ばれたのがすごく心地よくて、「自分を生きてる」って思いました。それまでは「〇〇ちゃんのお母さん」って呼ばれて、嫌ではなかったけれど、「自分を楽しむこと」も大事だと強烈に感じた経験でした。そこから自分が好きになり、自分の生き方を尊重するようになりました。言おう、やろう、という行動力はそこから来ているかもしれません。
マイナス要素が重なって「しんどいなぁ」という局面もあると思いますが。
そうですね。基本的に頼めることは頼んで、自分で解決しなきゃいけないことは、自分で調整して乗り切ろうという考え方です。もちろん周りの人や、環境のせいだと思ってしまうこともあります。でもそれでは前に進まない。嫌なことを頭の中に残し続けるより「できること」を考える、そう切り替えるようにしています。
リラックスできる時間も大切ですね。毎日、家に帰ったらお酒を飲んでホッとしています。日本酒が好きです(笑)。あと活力源になっているのは旅行。以前は毎年見たことのない景色を求めて海外旅行へ行っていましたが、今は国内旅行を楽しんでいます。中でも透きとおった海や南国フルーツもおいしい奄美大島はおすすめです。いつもと違う景色を見るのは、大事な“自分時間”にもなりますね。
今後のビジョンや目標について教えてください。
今、社内の女性管理職の割合が5%なんですが、目標の10%を達成するために必要なのは、残業をしなくても管理職の業務ができる体制を作ることだと考えています。男女問わず管理職になる世代は、介護に直面することも当然ある。管理職になりたくないのは時間の制約があるからという若い世代も。そういった社内のリアルな声を吸い上げながら、「こうあるべき」という思い込みを外して認めていくことで、誰もが働きやすい環境を整えていきたいです。
これからの社会で活躍を目指す女性にメッセージをお願いします。
女性は、結婚~出産で将来のビジョンが大きく変わる人が多いですが、女性だから、母親だからと遠慮しないで将来のキャリア、ビジョンを語ってほしいです。やってみたいことに挑戦して、問題があれば周りに相談しながら解決策を探ればいい。他人と比べるのではなく、自分のペースで自分らしく結果を出していくことが大切だと思います。私自身、ダイバーシティ推進に関わってから出会いが増え、視野も広がりました。明確な答え、決まったやり方がないからこそ面白い部分もあります。新たなチャンスがあれば、楽しもうという気持ちで始めてみてはいかがでしょうか。