2024.05.22起業家
座右の銘は「やらなかった後悔よりもやった後悔」 会社員を辞めての創業
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2000年P&Gに技術系総合職として入社 パンパースの原材料の開発を担当
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2006年第一子出産、1年間の育休取得
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2009年第二子出産、1年間の育休取得
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2017年グループリーダーに昇格新規原材料の開発戦略や現地中国人部下の遠隔での指導に携わる
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2019年P&Gを退職、英会話講師の傍ら、共働き家族のコミュニティ「こ・ねくすと」設立
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2020年強みを活かした人材育成・組織開発事業「Awesome!(オーサム!)」を創業
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2023年理系女性に特化した事業AWESOME(オーサム)」の準備をスタート
これまでのキャリアと現在のお仕事について教えてください。
大学卒業後、新卒でP&Gに入社し、19年にわたり開発部門で紙おむつパンパースに使用される原材料の開発と導入に携わってきました。入社7年目と10年目に第一子(息子)・第二子(娘)を出産しましたが、出産前は楽観的な性格もあり、事業所での初めてのワーキングマザー正社員となることに不安はありませんでした。しかし実際になった後、自分の中で精神的・物理的にどうバランスを取ればいいかわからず、また身近に同じ状況の方がおらず相談できなかった点は苦労しました。一方で、もっと多くの女性には出産後もキャリアを続けてほしいという思いが強かったので、時短勤務や在宅勤務などの制度を活用したり、子供の病気の時などは周りに積極的に伝えて理解を得ることで、子供を育てながら働くことに協力的な職場づくりを心がけていました。
育休や時短勤務を経て、グループリーダーとしてアジア地域を担当し、中国人部下の育成にも取り組んできました。40歳の時に新たな挑戦を求めてP&Gを退職しました。 おそらく私自身、何かに挑戦して成長を実感できることを仕事に求めていたのだと思います。19年間ずっと紙おむつの開発に携わっていたこともあり、国内外ほぼすべてのプロジェクトに関わったため、仕事は充実しているものの成長という部分では頭打ちを感じていました。また母として子育てをしたことで、人の成長への関心が強くなり、その方面でのキャリアに関心を抱いたという部分もあり、新たな挑戦を求めたのだと思います。
現在は英会話講師業やコンサルティング業のほか、リケジョネットワークの構築などにも取り組んでいます。P&Gでは2人のお子さんを育てながら開発部門のグループリーダーとして働いていたとのことですが、その経験についてお聞かせください。
事業所のワーキングマザー第一号として、身近な相談相手がいなかったことから、常に仕事と家庭のバランスの取り方には悩んでいました。最初の転機は第一子の育休から復職1年後にやってきた海外出張でした。当時、新製品開発プロジェクトに必要な原材料の試作が海外で行われることとなり、私が現地で立ち会わなければならない状況でした。しかし、真冬の2月にすぐに熱を出す2歳の息子(当時は熱性けいれんもありました)を日本において、1週間の海外出張に行くことを決断するのはとても難しかったです。
その時はどのような決断をされたのでしょう.
自分自身に向けて「いったい何のために働いているのか?子どものせいにする選択になってないか?」と問いかけました。躊躇して海外出張を断り、プロジェクトに影響が出てしまった時「子供のせいでこんなことになった・・」と相手のせいにしてしまう自分の姿が見えたので、この一週間だけはこのプロジェクトに集中したいと、家族や保育園に事情を話し、海外出張に行くことを決断しました。
これがきっかけで、上司とも率直に仕事の量や内容について話すことができるようになりました。退職後に上司に当時のことを聞いたところ、当初どこまで任せればよいか少し遠慮していたが、私からの話を通して「母親だからと変に遠慮する必要はなく、他の社員と同じように期待して任せて大丈夫」と確認できたのは参考になったと言っていただきました。やってみる、伝えてみることで自分にも相手にも理解してもらうことができる、ということを実感した出来事でした。
□働き続けるためにどう「転機」を乗り越えるのか
他にも転機がおありとお聞きしていますが、それらの転機を乗り越えるために、どのようなことをされたのでしょうか。
一つ目は家族や職場の理解とサポートです。職場の上司や同僚、そして家族からの理解とサポートが不可欠でした。特に職場では、メールの署名欄にお休みをいただく日や勤務時間を記載することで、職場の方々と事前に状況を共有し、サポートしてもらえる環境を整えました。
二つ目はシッター+家事代行サービスです。小1の壁(※注)にぶつかった時、上司からの言葉に励まされ、特例時短の活用と業務調整に加え、これまで躊躇していたシッター+家事代行サービスの利用を始めました。シッターさんに、お迎えや食事の準備をお任せすることで、私は仕事を片付けた後に帰宅し、ゆっくりと子供たちとの食事や絵本の時間を過ごせたり、お風呂の介助をお願いしたことで、つかの間の一人お風呂タイムでリフレッシュも図ることができました。
三つ目は外部からのインプットです。一つの会社でのキャリアに縛られることなく、人生としてのキャリアを考えるために、普段とは異なる情報源にアクセスすることが重要だと感じました。あすてっぷKOBEさんやイーブン(兵庫県男女共同参画センター)さんが企画するセミナーは、新しい情報や視点を得る機会になると感じ積極的に活用しました。これらのセミナーから得たインプットは、転機を乗り越える上で大きな支えとなりました。
※注 小1の壁とは子どもの小学校進学に伴い、小学生を育てることと両親の仕事の両立に負荷がかか
る状況を指す言葉です。
□経験を活かした起業で実現したい世界とは組織で働いた経験を活かし、今取り組んでおられる事業について教えてください。
人と組織の強み開発事業「Awesome!(オーサム!)」です。私自身がキャリアに自信を失いかけていた時にストレングスファインダーという強み診断ツールがきっかけで、自分自身を知りキャリアを挽回することができた経験から、理論と実践に基づき、自分やチームの強みを知り成果につなげるためのセッションを提供しています。これまでに15の事業者、延べ約1500名以上の方に提供させていただきました。目指すゴールは自分だけの強みを知ることで、「自分ならできる」「自分たちならできる」と自信を持ち一歩前に挑戦し、結果につなげていける人や職場を日本中に増やしていくことです。
2024年春に本格始動されている新しい事業、理系女性(リケジョ)のネットワーク構築についても詳しく教えてください。
理系分野で活躍中の女性たちのキャリアを後押しすると同時に、理系が女子にとっても魅力的で当たり前の選択肢となる循環をつくっていきたいという思いから立ち上げました。まだ理工系に進む女子もこの分野でキャリアを歩む女性も少数派です。身近に相談できる相手やロールモデルがいないことから、将来のキャリアに不安を抱える理系女性の声を多く聞いてきましたし、私もその一人でした。
理系の仕事はなかなか表に見えてこない部分が多いため、子供たちもなかなか理系の先のキャリアをイメージするのが難しく、選択肢に入ってこないようにも感じています。この負の連鎖を断ち切るため、『日本一「見える」理系女性のプラットフォーム』を目指し、理系女性たち(リケジョ)が年代や業種の壁を越えてつながり、彼女たちの多様なキャリアを見せていく取り組みを進めているところです。
そのほか、まだまだ簡単ではない子育てとキャリアの両立について、話し合えるコミュニティも運営されていますね。
2019年に始めた共働き家族コミュニティ「こ・ねくすと」のキャッチコピーに「三方よし」というのがあります。これは、仕事と家庭の両立だけでなく、自分を大切にすることにも優先順位を与えることを意味しています。私自身、相手を優先し過ぎてしまい、結果的に自分が疎かになり、仕事や家庭のバランスが崩れることがありました。先述の転機でも述べたように、選択を迫られる際は、「本当に納得できる選択か?相手のためだけでないか?」と自問することを心掛けています。また、自己ケアの一環として、自分を甘やかす時間を定期的に確保していて、ネイルサロンや温泉などで心身をリフレッシュし、仕事と家庭のバランスを保つよう努めています。
これらの事業で目指すことを教えてください。色々な事業をしていますが共通して目指していることは「自分の中にある可能性を信じて、それに挑戦する人を増やしていきたい」ということです。もともと英語が好きだったということが、P&Gで20か国以上の人と仕事する機会につながりましたし、理系を選んだことで、自分が開発に関わった製品を世の中の人に届けていくという醍醐味を味わうこともできました。そして、自分の強みを言語化できたことで、挑戦することに前向きになることができました。このように、挑戦していく人を少しでも後押しできる活動を続けていくことで、社会をもっと明るく前向きなものにしていきたいなと思っています。
□働き方や生き方の多様化の中、枠を超えてつながり、力を活かす
会社員を辞めての創業。ご自身のキャリアをどう捉えていらっしゃいますか?お子さんへの影響は。
周りにロールモデルがいない中での仕事と子育ての両立は本当に大変でしたが、これらの転機があったからこそ、「なぜ自分は働くのか」「どのように仕事と家族と自分と向き合っていきたいのか」という問いに真剣に向き合うことができました。会社を離れ、新たな挑戦に身を投じたのも、このような転機がなければあり得なかったと思います。
異なる分野のキャリアを選ぶことで、世の中には多様な働き方が存在することを知り、「これしかない」と思い込んでいた考え方を「これだけじゃない」に変えることができました。そして今、子供たちにも将来の選択肢が豊かにあることを伝えることができています。子育てと仕事の両立を通して乗り越えた経験は、私自身の成長に繋がり、子供たちにも還元する機会となりました。今では、その経験に誇りを感じています。
子育てしながら働き続ける女性へのメッセージをお願いします。
困難に直面すると、どうしてもネガティブに考えがちですが、必ず何か得るものや学ぶことがあります。ピンチはチャンスと捉え、向き合ってみることが大切です。自分自身の方向性がわからない時は、「まずはやってみる」ことで自分の本心に気づくことができるかもしれません。その行動を通して、周りにも「この人はこういう風に仕事に取り組む人」と理解してもらえるチャンスだと感じています。
友人からもらった大好きな言葉に「挑戦で得られるものは成功か成長のみ」があります。上手く行かなかったことは失敗ではなく、やったことで得られた経験値。次に生かすことができれば成長だと思って、私自身も日々取り組んでいます。BIG DREAMS NEED SMALL STEPS どの一歩もゴールに向けての大切な一歩
which step have you reached today?Importance of small steps 目の前にある今できる小さな一歩はあなどれない
※この記事は2023年11月28日にあすてっぷKOBEにて実施された「半歩進む勇気」のお話をもとに加筆修正したものです。当日、西岡さんのご講演後の参加者の皆さんとの交流会は大いに盛り上がり、西岡さんのお話にエンパワメントされる機会となりました。