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女性活躍WOMEN'S EMPOWERMENT

2024.02.19技術系

「やっぱり、チーズケーキが好き」 ぶれない思いで理想のデザートを目指して

  •  2003年  
    六甲バター株式会社入社 チーズケーキの開発を担当
  • 2009年チーズデザート6P開発開始
  •  2021年
    チーズプロフェッショナル資格取得
  •  2023年
    家庭用開発第二チーム(デザート開発専門部署) リーダー昇格

 

味に衝撃を受けた「チーズケーキ」との出会い

―現在の研究開発分野の職に就いた理由をお聞かせください。


子どもの頃からお菓子作りが大好きで、中でもベイクドチーズケーキは、いろんなレシピを試しながらよく作っていました。作ったものを食べてもらえる喜びから、食やスイーツに関わる仕事に興味がわき、大学は農学部を選びました。

そんな中、学生時代に「QBBベークドチーズケーキ」にたまたま出会って、あまりの美味しさに衝撃を受けました。チーズメーカーが作っていることもあって、今まで見てきたレシピのチーズケーキとは違う。クリームチーズの味が濃厚で、一口食べると口の中でチーズの香りが広がり、溶けるような食感で、とても感動したのを覚えています。

ただ、甘いものは好きだけど、スイーツは食べすぎると太ってしまうことも悩みで……。当時はあまり市場になかった美味しいとヘルシーを兼ね備えたスイーツを作りたいと漠然と思っていました。 チーズケーキなら、ヘルシーでダイエットに悩む女性が罪悪感なく美味しく食べられる理想のスイーツを作れるのではないか、この「ベークドチーズケーキ」を元にヘルシー設計のデザートができないかと考えるようになりました。

スイーツが作れる仕事といえばパティシエですが、大学で学んだ食品栄養学、食品化学等の知識を活かして、より多くのお客様に食べてもらえる食品メーカーの開発職に就きたいとの思いで就職活動を始めました。六甲バターの最終面接は「会社に入ってやりたいこと」について自由にプレゼンを行うというものでしたので、ダイエット効果があるハーブを調べて、フェンネルというハーブを組み合わせたヘルシー配合のチーズケーキを作って臨みました。六甲バターで作っているようなものはできなかったのですが、作ったチーズケーキの説明をし、役員の皆様に試食していただきました。

―入社して5年程チーズケーキの開発を担当されたのち、現在携わっている「チーズデザート6P」の開発へと進まれたそうですが、チーズデザート6Pとはどんな商品なのか、教えてください。


私が開発に携わり始めた時期に、「ベークドチーズケーキ」がデザート事業から撤退することになってしまったんですが、「チーズデザート6P」は、当社のベークドチーズケーキの味を再現したい強い思いから生まれた経緯があります。

「チーズデザート6P」は丸箱に入った扇形の個包装のクリームチーズに各種フレーバーをつけた手軽に食べられるチーズデザートです。チーズ自体が糖質コントロールしやすい素材ですので、ヘルシー志向の方にも喜んでいただける商品です。

チーズデザートは180日賞味期間があるんですが、フルーツなら本当に生のフルーツを食べているような香りや風味、ナッツなら絶妙な食感といったふうに、食材の味をキープできるように工夫しながら、常に本物感へのこだわりをもって開発しています。 

予想外のトラブルにもあきらめず、乗り越えてきた

―市場に出る商品の中でも、定番で残っていくものもあれば入れ替わるものもあると思います。携わってこられた中で、特に印象深かったものはありますか?


今の定番品の中にオレンジショコラという商品がありますが、一番作るのが難しかったですね。6Pショコラシリーズの一つ前にフロマジュエルという長方形のパッケージで小さいベビーチーズのような商品を販売していた時期がありました。その中にこのオレンジショコラ味があって、私の中では一番と言ってもいいぐらい美味しいと感じていたので、形は変えながらも、この味だけは続けたいという思いがありました。

でも、チョコレートはチーズよりも味が強いので、チーズデザート6Pシリーズの商品として出してもチーズ売り場では受け入れられないのではないか、という意見も多かったです。それでもやっぱり私の中では「この味をお客様に食べていただきたい!」という強い思い入れがあったので、チーズの製造ラインが稼働していない時間帯を使って試作を繰り返していました。世に出したい一心で、会社にも提案し続けて、ようやく受け入れてもらえた商品でした。

それから開発がすすみ、商品の発売日が決定したんですがすぐに原材料の配合を確定しなければいけない時期に、最終確認のラインテストで、それまでにはなかった物性の不安定さが起こってしまいました。毎日遅くまでテストをし続けても解決策が浮かばず焦りました。そんな時に、後輩が「別の実験で使っていた方法を取り入れてみたらいいかもしれないですよ」と提案してくれて。早速試してみたところ、油分離がおさまりました。いろいろ何をやってもできなかった時に、上司が一緒に考えてアドバイスをくださり、周囲のサポートもあって期日に間に合わせることができました。

日々仕事をしていると、このような予想外のトラブルはどうしても起こってしまいます。当事者になるともうだめだと悲観的になってしまいがちですが、あきらめずに取り組んでいくと解決策が見つかる。何とかなるものだなとこれまでの経験から実感しています。

―何があってもあきらめずに商品を提案しつづける姿勢が印象的です。商品開発の仕事をする上で大切にしていることはありますか?


過去に、商品の配合の調整が十分にできないまま、発売したことがありました。このときは、売上が伸び悩み早い段階で終売して後悔しました。そのような心残りがないように取り組むようにしています。

例えば、チーズをアルミ充填するときには、大きなミキサーにチーズをいれて、加熱しながら混ぜ、アツアツの状態でアルミ包装をします。仕上がったものが柔らかすぎると、包装からはみ出してしまいますし、逆に硬すぎるときれいに包装できません。チーズがうまく混ざらないと塊ができてしまうこともあります。その際、チーズの混ざり具合を改良するのに製造現場の方々に交渉してひと手間かけてもらうこともあります。現場に交渉するのはなかなか大変なのですが、こだわった商品を作るためには、譲れないところは通しつつ、それを納得していただけるように丁寧に説明をして協力を得ています。

―普通の6Pチーズよりもチーズデザートは柔らかくて、そこにも作る側の苦労があったと思います。その柔らかさへのこだわりを教えてください。


チーズケーキの美味しさは、食べたときに口の中できれいに溶けて広がって素材の味を全部感じられるような口どけの良さと、滑らかさが重要だと職場の先輩に教えてもらいました。そのためチーズデザートにおいても柔らかなくちどけの良さにはこだわっています。

年2回新商品を発表する時期に合わせて、限られた時間の中でお客様に驚きと感動を感じていただける商品を目指して、できる限り妥協のない商品づくりを心がけています。

商品開発者でありながらオールマイティーを目標に

―開発者としての信頼も培ってこられ、2023年からはチームリーダーに抜擢されたそうですね。

 

よりデザートに特化した第二チームが新設されることになり、そのチームリーダーを任されました。このチームは私を含めて女性3名、男性1名の4名編成です。

最初、リーダーの話を聞いた時は、これまでコツコツ積み上げてきたことを評価していただけたのが素直に嬉しかったですね。同時に、これからも一メンバーとして商品開発を続けて技術力をアップさせたい目標もありましたので、1週間ほど悩みました。でも、もし両立できれば成長につながる。そう考えてチャレンジを決めました。 今までは、1つの開発テーマを決めて一人で黙々と取り組んできましたが、チームリーダーになってからは、メンバーそれぞれの開発テーマを一緒に考えています。 リーダーになって業務に対して悩みや考えることは増えましたが、うまくいった時の喜びも数倍になりました。メンバーが開発した商品が改良を重ねてどんどん美味しくなっていく過程や、取引先に褒めていただいたり、喜んでいただいている姿を見ることもやりがいにつながっています。メンバーから学ばせてもらうことも多く、知識や経験を吸収できた1年でした。

今までご自身のテーマだけをやっていた時とは違って、他の方を見るようになって視点も変わられたんですか?


そうですね。マネジメント業務はまだまだ手探りなので、まずはメンバーの意見を聞くことを心がけています。

時短勤務の女性メンバーに対して、仕事の比重を重くすると大変かもしれないと判断し、控えめに仕事をお願いしていました。しかし、話を聞いていくと、彼女は仕事が好きでどんどんやっていきたい気持ちがありました。自分が良かれと思ってやっても相手が望んでいないこともある。日頃からのコミュニケーションも大切ですし、思い込みで動かずに相談しながら方向性を決めていくようにしています。 メンバーみんな仕事に対する意欲が高く、「何かできることはないですか」と尋ねてきてくれます。お互いを助け合えるチームなのでありがたいですね。部下が困った時には解決策を導き出せるように引き続き経験を積んでいきたいと考えています。

―日本では、まだまだ女性の開発者や技術者の割合が低い状況にありますが、比較的女性の多い職場環境なんですね。

 

私自身も以前は開発職といえば男性比率が圧倒的に高く、女性が体力のある男性と対等に渡り合っていくのは難しいイメージをもっていました。しかし、ここ10年ほどで徐々に環境は変わりつつあると感じています。当社は家庭用商品以外の開発者も、みんな同じフロアで仕事をしていますが、約半数は女性です。男性、女性に関わらず働きやすい環境も整っており、年々女性が増えている印象ですね。出産後も復帰して子育てと両立しているメンバーも多くいます。味づくりにも女性の感性は生かされていると思います。
ただ、製造現場でラインテストを行う際には20㎏もあるチーズの塊や粉物を大量に運ぶこともあります。予想以上に腕力と体力を必要とするので、我慢して作業した結果、腰を痛めて苦労した経験もしました。長く仕事を続けていくためには、自分の弱い部分は頼るのも大事だと痛感しています。その分商品の企画開発など自分の力を活かせるところで貢献していこうと思ってやってきました。

―開発職でこの20年で着実にキャリアを積み重ねて、マネジメント業務に携わられたんですね。


今まで、好きな仕事ができる環境で働けているのですが、「やっぱり、チーズケーキが好き」という気持ちがあったからあきらめずにやってこられました。関わる方々からヒントをいただきながら、年々美味しいものを作れるようになってきて、やればやるほど、結果が出る仕事だと思いますね。それを会社で評価していただけたことにも感謝しています。
今まで商品開発者として携わってきましたが、リーダーを任されるようになって部下に開発技術を伝える重要性を感じています。今後は開発現場でのマネジメント業務も含めてオールマイティーな働きを目標に頑張っていきたいと考えています。

―ここまでお仕事の話を中心に伺いましたが、お休みの日はどのようなことをされていますか?


以前は趣味でテニスをしていたんですが、腰を痛めてしまって最近は控えています。そのかわり、休日には仕事と趣味を兼ねて食べ歩きをしたり、ヘッドマッサージに行って、休息する時間を取ったりしています。頭を切り替える意味でもリフレッシュできる時間になっていますね。

―これから開発をはじめとした技術職を目指す女性へのメッセージをお願いします。


技術職の中でも、食品開発の仕事は商品のメイン購買層が女性ですので、女性の感性や強みを活かしやすい職種です。技術職を希望される方は、自分の好きなことや目標がはっきりしていて、それを突き詰めたいと努力されている方が多いように思います。好きなことを追求できる喜びは大きなパワーになりますし、多少の試練も乗り越えていけるもの。ぜひ「好きを仕事に」を目指していただけると嬉しいです。

 

所属団体名
六甲バター株式会社
所在地
〒651-0062 神戸市中央区坂口通1-3-13
事業内容
チーズ等の製造販売、ナッツ等の食品の販売
規 模
資本金:28億4,320万円 従業員:452名(2023年12月末現在)
ホームページ
https://www.qbb.co.jp/

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